五、自覚―そして少年は愛を知る 「父上!何故ユベルにあんなことを!」 駆け込んでそう叫んだ王子に、王はこう言った。 「…ユベル自身が望んだことだ」 それはどこまでも、冷たい響きだった。人間の温かさなど、どこにも感じられないほどに。 「そんなの…そんなの、分からないじゃないか!ユベルは、ユベルは優しすぎるから、だから…」 「確かに、ユベルは優しい。けれど、意に染まぬ役目を黙って受け入れるほど弱くもない。それはお前も知っているのではないか?」 「それは…」 「これはそなたを守るために必要な力。だからこそ、ユベルは竜になることを受け入れたのだ」 「…ボクの、ため…?」 「考えてみなさい。竜になるという決意が、どれほど重いものか。人の理(ことわり)から外れ、たった一人永遠をさまよう不老不死の存在が、どれほど孤独なものか。それでも、そなたを守るために、それは不可欠な力なのだ。そなたの心に宿る覇王の力は、そのまま闘いの宿命でもある。竜の力を持つ守護者は、そなたの宿命を共に背負う伴侶。…ユベル以外に、任せられる人間はいなかった」 「そんな…」 「数日すればユベルも目覚める。それまで、ゆっくり考えなさい。自分はどうすればいいのか…どうしたいのか。今日はもう休みなさい、王子」 「…おやすみなさい、父上」 * * * 一人自室へ帰って横になっても、そう簡単には寝付けなかった。 何故ユベルが、人の理を外れなければならなかったのか。 父の話した言葉は、分かるようでわからなかった。 「…守ってくれなんて、誰も頼んでないじゃないか」 そう呟いた言葉は父に向けたものだったけれど、同時にユベルをも責めていることにも気づいて後ろめたくなる。そんなことが、したいわけじゃないのに。 「…どうして、竜になんかなっちゃったの…?」 自分を守るため、自分のため。 自分に関わる事なら、どうして父もユベルも、何も話してくれなかったのだろう。話してくれれば、止められたかもしれないのに。 (…ううん…本当にそれで止められたかな…?ユベルは…いざってときは、頑固だから) 守るための力。それが無くて危うくなるのは自分なのだ。そういうときだけ自分に逆らうユベルを、一度だって止められたことなどなくて。それは父にも言えることだけれど。 (ああ、そっか…) たったひとつの答えが、腑に落ちていく。 「…ボクが子どもで…弱い、から…か…」 ゆっくりと閉じた瞳は、うっすらと涙に濡れていた。 * * * ユベル、キミがボクのために永遠を生きると言うなら、ボクはキミに永遠の愛を捧げよう。キミの孤独が癒せるように。 それがボクの、たった一つの願い事― |