想い寄せ、始まる運命
 
 

 六、告白―歴史に眠るものがたり


 むかしむかしあるところに、おおきなちからをもったおうじがいました。
 けれどそのちからをもってしても、くにをしんりゃくするはめつのひかりはてごわく、きびしいたたかいでした。
 やまのむこうにみえるたたかいのひかりがきえ、やさしいよるがおとずれたとき、ひとびとははめつのひかりがたおされたことをしりました。
 けれどついに、おうじがもどってくることはありませんでした。
 あるひとはいいました。きょうだいなてきとさしちがえ、おうじはえいゆうになったのだと。
 またあるひとはいいました。おうじはそのみとひきかえに、くにをまもりとおした。かれこそが、ほんとうのおうだったのだと。

 そしてまたあるひとは―

 * * *

「ユベル、ずっと考えてたことがあるんだけど」
 破滅の光を倒した後、王子はそう言った。
「なんですか?」
「このまま、ボクのことさらってよ」
「…え?」
 唐突に過ぎるその言葉に、ユベルは戸惑う。
「宇宙を救う力を持つボクを、大人になるまで守る。使命を果たしてしまった今、キミとの父上の契約はここまでだ。キミがボクを守る理由はもう無い。…ボクがキミを縛る権利も、もう無いんだ」
 淡々と語る王子を、ユベルは呆然と見つめた。王子と一緒にいること、王子を守ることに夢中で、この先のことなど考えたことも無かった。いつの間に、追い越されてしまったのだろう。
「ですが…その、さらうというのは、何故なんです?契約が切れても、ボクは王子の側を離れるつもりなんて…」
「分かってる。だけどこのまま帰ったら、英雄扱いで、王になって、…キミ以外の誰かと結婚して…そういうことになるだろう?」
「それは…」
 最初から分かっていたことだ。そのつもりでいた。ユベルにそう言わせないだけの意志が、視線を落として思案する王子の瞳には宿っていた。
「ボクはキミだけを愛し続ける…ボクはキミを、愛してる。それが国のために…皆のためにならないんだとしたら、ボクはどうしたらいいのか、ずっと考えてた。そうしたら、ボクには何もできないってことが分かった」
「…王子」
「ボクを見て、ユベル」
 不意にユベルへと焦点を合わせた王子の視線が、ユベルの瞳を捕える。
 ユベルの見つめる先で、王子がそっと笑った。
 その微笑みは、優しく深い。
「…ボク達はきっと、キミの愛の深さと、ボクが子どもな分だけ、置かれた立場に振り回されて、今まですれ違ってた。だけど、今は…今だけは、違う。今ならボク達には、選ぶことができる。だからちゃんと言うよ。ボクはキミが好きだ。キミはボクのこと、どう思ってる?」
 それは、初めての告白だった。
 大きすぎる愛の誓いの中に隠れていた、小さな恋。
 枯れ果てたはずの涙が、ユベルの頬をつたう。
 王子の両手が、その頬を包んだ。
「…私も、あなたが好きです。あなたを誰にも渡したくない」
「…うん」
 額に、瞳に、唇に、口づけが降る。
「本当にいいのですか?どことも知れない、誰もいないところへ、あなたを連れ去ってしまっても」
「それがキミのいるところなら、どこへでも。言っただろう?さらって、って。全部キミに任せるよ、ユベル」
「あなたという人は…」
 すべてを委ねると言うそれが命令であることを、王子はもう知っている。その命令を、ユベルが望んでいることも。
「…分かりました。一緒に行きましょう、他の誰も知らない、二人だけの世界へ」
「うん、行こう」
 握ったその手を離さない。
 それが二人の選んだ、最後の答えだった。

 * * *

 ―おうじにはりゅうのともがいた。
 ちからをあわせててきをたおしたおうじは、たたかいにしかいきられないりゅうとともに、たたかいをさがしてたびだったのだろう。

 そしてもうひとつ、全く違う物語があります。
 それは“おうじ”ではなく、“ひめぎみ”の物語。

 むかしむかしあるところに、ちえあるひめぎみがいました。
 ちからのないひめぎみは、くにをまもるためにりゅうのちからをかり、しんりゃくしてきたてきとたたかい、くににへいわをもたらしました。
 けれどたたかいがおわっても、ひめぎみがもどってくることはありませんでした。
 ひとびとはくちぐちにこういいました。

 ひめぎみはきっと、りゅうのはなよめになったのだ、と。


 真実は遠い時の中。
 人々が分かるのは、この国が誰かに守られたということだけ。
 いつしか人々は、こう語るようになりました。

 誰かが守ってくれたこの国を、我々もきっと守り続けよう―


次へ

 
BACK