episode8 ほんとのきもち 藤原の自暴自棄が事件というほどの事件にもならず、いつも通りの生活が戻ってきた頃。 放課後の図書室で、少しだけ改まって、藤原が言った。 「二人とも、今度の日曜空いてる?」 「ああ」 「大丈夫だよ」 ほとんど即答されて、若干肩透かしを食らいながら言葉を続けた。 「じゃあ、ちょっとつきあってほしいところがあるんだけど」 「うん、いいよ」 「構わないが」 迷いなく答えた二人に、藤原は半分呆れ顔で言った。 「…先にどこ行くかとか聞かないか?普通」 「本当に大切な用事だってことくらい、聞かなくても分かるよ」 そう言って笑った吹雪と、同じ意見だとばかりに微笑む亮に毒気を抜かれて、藤原はまだ少し痛みのある顔で微笑んだ。 「ありがとう」 +++ 約束の日曜日。 なんとなく、目的地の予想はついていた。 バスを降りて途中で藤原が花を買ったから、それは確信に変わった。 藤原に連れられて行った先、小さな墓地の片隅に、藤原の家名が刻まれた墓があった。誰かが丁寧に手入れしているのだろう、そのお墓は、墓地の中で一番綺麗だった。 勝手に入るわけにもいかず、吹雪と亮は藤原を見守る。 何かドアでも開けるような雰囲気で、藤原が墓前へと立った。 一呼吸、息を吸った。 「なんで何も言わずに置いてったんだよ!!父さんも母さんも大っ嫌いだ!!」 右手に花を提げたまま、仁王立ちでそう叫んだ。 その波が引いてしんと静まりかえった中で、藤原は墓前へと花を供えた。 「…こんなの嘘だよ。二人とも大好きだよ。でもだから、ずっと寂しかったんだからな…」 しばらくそのまましゃがみこんでいた藤原が、おもむろに立ち上がってこちらを向いた。 「墓参り終わり!こんなのにつきあわせて悪かったな、行こう」 そう言った藤原に、二人はただ優しく微笑む。 笑っていたはずの藤原の顔が、少しこわばった。 そのまま額を吹雪の肩へと預けてきた藤原の頭を、吹雪はそっとなでる。 「大丈夫。ちゃんと届いてるよ」 抜けるように高く青い空の下で、ひときわ強い風が吹きぬけた。 目の前に、春が待っていた。 090116 +++ final episode これから に続く +++ |
天上院さんの名字は藤原の両親の声を代弁するためにあるんだと最近信じ込んでます。 |